ユネスコ世界遺産・最古の植物園
オルト・ボターニコは、1545年ヴェネツィア共和国議会の決議により、パドヴァ大学付属の植物園として開園した。当時、サンタ・ジュスティーナ教会の敷地内につくられており、研究を主な目的とした大学付属の植物園としては世界最古のものとして知られている。 当初、薬草研究のためにここには多くの植物が植えられ、それまでの薬草医学の間違った認識などを改め、薬学の飛躍的な進歩にも貢献した。海洋貿易により富を得たヴェネツィア共和国下という地位性を生かし、海外の植物を同園に持ち込んだことも、同学問が躍進した要因である。
同園の建築は、ベルガモ出身の建築家アンドレア・モローニAndrea Moroniによるものだ。 円形を基調に内接する正方形を四分割に配置。"Quarti"または"spalti"(区域・区画を示す言葉)と呼ばれるそれらの4区画は、70㎝の段差を用いて歩道と区別され各中心には小さな噴水が設置されており、全体に美しい幾何学的な模様を形成している。 さらに1552年にはその周囲を壁で覆うこととなるが、同園に植栽された植物は珍品で高価なものであったこともあり、夜間の盗難などの被害に度々あうことへの対策であった。その後、植物の増殖や改修なども積極的に行われてはいるが、当時の原型をほとんど損なうことなく現存に至っている。
園内に残る最も古い植物は1585年に植栽されたヤシの木。
詩人で自然科学者でもあるゲーテは、1786年9月27日、パドヴァに立ち寄り同園を訪れ、このヤシの木の下にて彼独自の自然観を得、その後彼の著書「イタリア紀行」に反映したとして知られている。約11mの高さのこの不朽の木は、それ故『ゲーテの木』と呼称され、現在ガラスで覆い保護されている。その他、1750年植栽のイチョウやタイサンボクなどはヨーロッパ最古のものだとされている。
さらには園の壁の外側につくられた"Montagnola"と呼ばれる小丘にも、研究目的の植木が盛んにされている。ここはカーブのついた細道があしらわれ、ちょっとした英国庭園風な造り。1680年植木のプラタナス(スズカケノキ)や1828年のヒマラヤスギなどが、中でも古いものとされる。これらはイタリア国内に持ち込まれたもののうちの最古とはいえないまでも、初期のものであることは間違いない。
他、同園と世界各国とのネットワークによって、植物及び種での交流があり、中にはイタリアにおいて初めて同園で植栽され、気候馴化されて国内へ流布したものもある。ジャスミン、フリージアなどはその一例である。同様に、食用植物等に関してもここを起点にしたものもあり、ヒマワリ、ゴマ、ジャガイモなどはその代表的なものとして知られている。 1997年、ユネスコ世界遺産に登録された。